夜の嵐が春一番だった。
日比谷のブックデザイ展を見に行く。
前期の最終日の閉館1時間前だったせいか、行列になっていた。
20分ぐらい並んで入る。
見にくくはなかった。
しかし情報量がすごくて、説明も極小なので大半はチンプンカンプンで、
「おお、あれも!これも!その本も!」と驚くしかできなかった。
「こころ」のノンブルに夏目漱石が書いた数字を使ったというのはグッと来た。
日本橋高島屋の今井麗展も見る。
和の雰囲気がほとんどない。
アメリカ人とかオランダ人とか言われたら納得してしまいそう。
ストロークの強い潔い油絵。
美術品コーナーの広々とした1スペースで行われている。
入って行ったらソファに座っていた先客のおじいさん+母娘だけがいた。
その3人にデパートの人らしき男性が「もう帰ってください」と
言うのが聞こえて「えっ」と思う。
しかし和やかな帰り方をしていた。どういう関わりだろう。
デパ地下のドンクとメルヘンでそれぞれフルーツサンドを買う。
夜、「百円の恋」を観る。
前半のクズに次ぐクズの嵐に魂をどんどん削られるが、
後半の展開は号泣しながら観た。
すごい。
安藤サクラすごい。
二重あごすら伏線。
エンディング曲がまた掴まれる。クリープハイプだった。
「たそがれたかこ」につながった!
聴かねば。
みっともなくても、みっともなさ全開で、
何かを手に入れようともがく人が素晴らしい。
でも私はもがけない。
主人公をゴーカンする男にメンタリティは
一番近いのではないだろうか。
というかあの男の演技は会話の間合いといい、
自己愛からくる他人とのコミュニケーションの断絶と言い、
絶妙すぎて反吐が出そうだ。
試合のシーンはもちろんフルだ。
映画館で観たら手を握り締めて観ただろう臨場感。
対戦相手は同じ女子ボクシング映画「ガールファイト」の
主人公と同じようにアフロアメリカンがよくやるような
細かい三つ編みでびっしり覆われた髪型で、
(コーンロウというらしい)眼光鋭く見るからに強そうだ。
そんなすごい選手に、32歳まで自堕落に暮らしたあとに
ボクシングを始めて、今回が初試合の主人公が
勝ってはいけないのだ。
そういう奇跡は少年漫画ではありかもしれないが、
これはそういう話ではないのだ。
勝つことが彼女のためになるとは思えないのだ。
しかし勝ってほしいのだ。
いや勝ってほしいのだろうか私は。
むしろ負けてほしいのでは。
負けるのを見て「世の中はそこまで甘くはない」と
いうことを読み取って、したり顔をしたいだけなのではないか。
と、心千々に乱れながら観た。
佐藤愛子「孫と私の小さな歴史」。
孫娘桃子さんが赤ちゃんの時から大学生に至るまで、
毎年イカれた仮装をして年賀状を作った、その記録。
取り組み方の本気度について何回か書いてあるだけに、
余計な照れなど無縁の写りぶりがかっこいい。
出来がいまいちだった年の残念がり方も。
孫娘についての論評も歯に衣着せずに痛烈で、
それに対する孫娘の態度も大物感あって、
さすがの血筋だなあと思う。