涼しい、驚いたことに雨


7時ごろショッピングセンターの本屋で。
レジの方から「なにやってんのよー。じょうだんじゃないわよー。どうなってんのよー」と尖った声が聞こえてきた。オネエ声でずっと怒っている。年齢はだいぶ高そうだ。棚の向こうだから姿は見えない。それをBGMにうろうろしていたら、店員が4人ぐらい団子になって近くにやってきてああだこうだと棚を見ている。
目的の本を持ってレジに行く。さっきの団子がレジの奥でああだこうだと言っている。じいさんはまだ怒っている。「店長呼びなさいよー」と言っている。我慢できなくて横を見てしまった。声の主は白いシャツとスラックスの勤め人スタイルのおじさんだった。西川きよしを更にガマガエルのようにした顔をしている。私と同年代かもしれない。女性の恰好をしたおじいさんを、具体的には作家の志茂田景樹を想像していたので、ギャップに驚いた。私の会計の間もその人はずっと怒っていた。世の中はこの人にとって全然優しくなくて、だから少しのことでも「また!」と感じて切れてしまうのだろうか。と考えながら帰った。



深夜、部屋から実家への途上。
坂の上のそば屋の角で、カップルがいちゃいちゃしていた。たっぷりしたフレアスカートの女の子と、キャップをかぶってバミューダパンツを履いた男の子。女の子が彼に背を向けて駅に向かおうとすると、彼女の手首をつかんで引っ張る男の子。女の子も振りほどくでもなくゆらゆら揺れている。絵に描いたようないちゃいちゃだ。そのすぐ横を通ったときにまたつい男の子を見てしまった。165センチぐらいの彼女よりだいぶ背が低かった。私と変わらないかもしれない。どうやら女の子だった。



先入観が覆されて、自分の偏見を見せつけられたできごとふたつ。



書店で友人Yはんが編集する子育て雑誌を見た。
Aさんに頼んだというページが続く。「おー」と見ていくと、間に判型を小さくした挟み込みの特集ページがあって、その絵が旧友のUさんだった。いい絵だった。
友人知人はみんなちゃんとこうやってやりたいことを絞ってがんばって結果を出している。言い訳ばかりして会社にしがみついて安全を確保している自分は所詮こうやってみんなの活躍を指をくわえて見るしかないんだなと思い、暗くなる。安全なところにいる弱くてつまらない自分。比べたところで仕方がないのに。




ナメクジをたくさん殺す。




5時半、たろうの声で起きる。町田康「珍妙な峠」を読みながら番をする。
MacBookAirを買ったけど使うに至らなかったよということをこれだけ長く面白く書ける話芸。いやさ文章芸。

珍妙な峠

珍妙な峠

「自分はどんくさいから」「人生のほとんどを小説に捧げ倒さないとまともな小説が書けない」というのの前のところは韜晦だ。ちょっと前までの私は真に受けて「なるほどどんくさいんだな」と思ってしまっていた。